パーキン … イギリス 北部地域 …
『パーキン』はオーツ麦(オートミール)とブラックトリークルがたっぷり入ったイギリスで作られるジンジャーブレッドの総称です。
気候が冷涼で小麦が育たずオーツ麦の生産が盛んなイングランド北部では、ケーキタイプからビスケットタイプ、フラップジャックのような板状のものまで数えきれないほどのバリエーションのパーキンが作られ、地域ごと、家庭ごとにレシピが受け継がれた伝統があります。オーツの噛むほどに湧いてくる滋味と、ブラックトリークルの苦味を含んだ深い甘味 そこにスパイスが加わるのですから、身体を芯から温め活性化してくれる健康応援団的な食品であり、保存性も高いので寒さの厳しい長い冬を過ごすための頼もしい相棒でもあります。
とはいえ、その多彩なパーキンが生まれたのはほんの200年ほど前のこと。それまでイングランド北部やスコットランドで暮らす人々はオーツ麦を水やミルクと合わせてふやかしたり、炊いてお粥にして食べていました。さらに砕いたオーツを水で溶いて生地を作り、火床やかまどの火の近くに置いて熱くなったベイクストーンや、暖炉の火の上に設置して熱くなったグリドルと呼ばれる鉄板の上に生地を広げて焼くフラットブレッド「オーツケーキ」も日常食で、甘味料も貴重で高価でしたから、お祭りやクリスマス、イースターなどハレの日には、この日とばかりに生地に蜂蜜を加えて甘くして楽しんでいたのです。
そんな簡素なオーツ麦の調理が一気に飛躍するのは鉄製オーブンが普及しはじめ、糖蜜シロップが開発されて製品化された1800年代のこと。
イギリスの砂糖
1670年頃 イギリスによる西インド諸島でのサトウキビの栽培が始まると、サトウキビを加工した粗糖に加え、その副産物であるモラセスmolassesc と呼ばれる「黒い糖蜜」も本国に運ばれてきました。粗糖は精糖工場で砂糖に精製されて流通し、モラセスは主に飼料用に使われました。
1770年頃には砂糖の生産量が増え、次第に庶民でも買えるようになっていきます。
『ブラックトリークル』と『ゴールデンシロップ』の登場
1880年代初頭 エイブラム・ライルが モラセスの成分調整を行い、食用のシロップを開発し、商品化しました。 濃度が高く、ほのかな苦味が特徴の『ブラックトリークル』と、コクのある甘さとキャラメルのような香ばしい風味の『ゴールデンシロップ』は瞬く間に人気を得て、イギリス中のキッチンに浸透していきます。
キッチンストーブ
1800年代、産業革命が進み、次第に一般家庭に鉄製のオーブンが普及していきます。キッチンストーブと呼ばれたそれは、暖炉に代わって設置され、火床に加え、湯沸かしや調理の熱源となり、オーブン機能まで備えていましたから、一般家庭でも手軽にパンやケーキを焼くことができるようになり、ホームメイドクッキングを実現させる設備として革新的なものでした。
こうして 北イングランド特産のオーツ麦とブラックトリークルをたっぷり使ったパーキンが実現する状況が整ったのです。ちなみにParkinという名前は、ヨークシャーに多い姓Peterさんの愛称 安価で栄養のあるパーキンを好んで食べていた男性たちの中にPeterさんがたくさんいたのかもしれませんね。
その後 重曹ついでべーキングパウダーが開発されると、パーキン生地にも膨張剤が使われるようになり、もっちり、ねっとり弾力のある現代のパーキンが実現したのです。
食物繊維やミネラルが豊富な健康食材であるオーツと薬効のあるスパイスを材料とし たっぷり使われるゴールデンシロップやブラックトリークル(モラセス)のおかげで、焼いた当日よりも翌日、翌々日のほうが、しっとり馴染んで美味しくなり、味の変化を楽しみつつ、ゆっくり味わうことが出来る。スローライフに寄り添う食品でもあり、優しさと力強さを秘めたパーキン 肌寒さを感じる季節にたっぷりのミルクティーと共に楽しみたいケーキです。