ティルゲル Tirggel … 繊細で上品な食べられる芸術品 …

『ティルゲル』は、手に持ってかざすと向こう側がすけて見える薄い生地にひときわ繊細で美しいレリーフが浮かぶ姿から「食べられる芸術品」「ヨーロッパ一美しいビスケット」と称される ジンジャーブレッド。

14世紀ドイツ ニュルンベクの『レープクーヘン』がチューリッヒに伝わると、小麦粉、蜂蜜、スパイスを合わせ、捏ねて作る生地をモチーフが彫り込まれた木型に押し込んでから焼く基本の材料や製法はそのままに、極薄な焼き上がりを目指して作りだされたチューリッヒオリジナルで、描かれるレリーフに時代を映しながら街と共に歩み、今でもクリスマスと春のお祭り『セクセロイテン』には欠かせない市民のソウルフードです。

その材料は小麦粉、蜂蜜、スパイスのみで、卵やバター、膨張剤も使わないからとても硬い! ポリっと折った断片をしばらく口の中においておくと、にわかに蜂蜜が溶け出して、優しい甘みが口いっぱいに広がります。紅茶やコーヒーに浸して柔らかくなったティアゲルをいただくのも昔ながらの味わい方。

中世以来チューリッヒはイタリアからドイツを結ぶルートの宿場町であり、商業都市および流通の要所として繁栄。そうした経済力を背景に、神聖ローマ帝国 皇帝に市の自治権を願い出て勅許を受け、1218年 帝国自由都市となっています。

ディルジェリーと魔女裁判

ティルゲルが「ディルジェリーDirggeli 」の呼称で歴史に初めて登場するのは、1461年に残された魔女裁判の記録文の中!

この裁判は人々の『ディルジェリー』への関心を呼んだ反面、「カルトの集会の食べ物である」とのデマも飛び交って、一時話題になったものの、高価なそれは広く庶民のお菓子になることはありませんでした。

ティルゲルのあゆみ

ギルド組織が市政を担う体制が確立されると、議会はギルドメンバーによってのみ構成され、チューリッヒの街は12~13のギルドの代表によって治められることになり、この体制は1798年ナポレオンが市政に介入するまでの460年あまりの間維持されました。その間『ティルゲル』はパンギルドが認め、権利を与えた職人のみが作ることを許される特別感溢れる食品でした。

フランス革命戦争とナポレオン戦争の時期にフランスの支配を受けた後,ウィーン会議によって1815年に22州による連合体制に再編されて独立し、1848年には現在に続くスイス連邦が成立します。

自由生産の時代を迎えて…

ティルゲル生産権の縛りがなくなり、すべてのパン屋に生産権が与えられた1830年代 チューリッヒの街とその周辺部には新たなティルゲル作りに夢を託し、情熱を注ぐ職人たちによって何軒ものティルゲル専門店ができ、全盛期を迎えます。

この時期開店したティルゲル専門店はその後 代を重ね老舗となっていきますが、後継者不足などから時代とともに数が減り、個人経営のティルゲル専門店は姿を消しています。店を閉じるにあたり、ベーカーたちは3代、4代と受け継いできたレシピと木型を聖ヤコブ財団に寄贈 こうした状況に財団は財団の商業センターにティルゲル ベーカリーをオープンさせます。

郷土菓子の技と伝統の継承に奮闘している聖ヤコブ財団ティルゲル製造部門長の Urs Jäckle ウルス ジャックさんはスイス連邦政府認定の資格をもつパン職人および菓子職人 人呼んで『ティルゲルの名匠』 

聖ヤコブ財団のティルゲルは街中各所、空港のショップにも置かれています。ヤコブ財団のシンボルマーク帆立貝の青いリボンで結ばれたビスケットを見つけてお土産にされてみてはいかがでしょう。クリスマスツリーの飾り用にリボン穴のあるものも魅力的

*Urs Jäckle ウルス ジャックさんがスタッフを率い、自らも職人としてティルゲルを作る現場レポートはこちらから… セント・ヤコブ財団を訪ねて

1830年代ティルゲル作りに情熱を注いだシュプリングリさん その後チョコレート作りに傾倒し、スイスチョコレート製造のパイオニアの1人として活躍して、以来200年 彼の興した店は「チューリッヒで1番有名なチョコレート店」と評される店『Sprüngli』として継承されています。

チューリッヒwatching

チューリッヒは日本からの直行便が運航するスイスの玄関とも言える街

中央駅から15分ほど歩いてチューリッヒ「発祥の地」といわれる『リンデンホフの丘』に登ると、公園になっており、足元にはリマト川Limmatが流れ、その向こうに旧市街が広がります。『リンデン』はドイツ語で『菩提樹』を、『ホフ』は『公園、中庭』を表す言葉

紀元前1世紀この地に侵攻してきたローマ人は氷河が運んできた堆石からなるこの丘に関所をおいて、リマト川を往き来する船から通行税の徴収を始めます。関所はラテン語で『トゥリクム Turicum』といい、それが『チューリッヒZurich』の名前の由来になったそう。

2本の尖塔 をもつグロスミュンスター聖堂のステンドグラス

アウグスト・ジャコメッティ作