パン・デピス Pain d'épices … フランス アルザス …
フランスの北東部 ライン川を隔ててドイツと隣接しているアルザス地方
この地はボージュ山脈とライン川に挟まれ、葡萄、小麦、果物類に加え、乳製品などの農作物に恵まれ、点在するワインの産地をつなぐ『ワイン街道』が縦断しています。さらに鉄や石炭といった地下資源も豊富なことから、有力勢力の争奪戦を免れず、5世紀末にはフランク王国に統治され、9世紀からは神聖ローマ帝国の支配下となり、17世紀 ほぼ全域がフランスに帰属したものの、その後ドイツ領とフランス領の間を行き来し、第2次世界大戦後はフランス領に。
その数奇な歴史を反映して、両国の要素を織り交ぜた独特の文化が花開き、料理やお菓子もドイツの香りを感じさせる素朴で力強い個性派揃い。『パン・デピス Pain d'epice 』も、13世紀から続く歴史を背景に、様々な形状のものが作り継がれています。
その数奇な歴史を反映して、両国の要素を織り交ぜた独特の文化が花開き、料理やお菓子もドイツの香りを感じさせる素朴で力強い個性派揃い。『パン・デピス Pain d'epice 』も、13世紀から続く歴史を背景に、様々な形状のものが作り継がれています。
ドイツ南部ウルムUlmの修道院に残る「麦粉と蜂蜜にスパイスを加えて、『ペファークーヘン』を作った」とする13世紀末の手稿が、ジンジャーブレッドに関する最古の記録です。ペファークーヘンは修道院つながりでライン川沿いに進んでアルザス地方、さらにフランス王国のランスReimsやパリParisにも伝播していきました。
アルザスの中心都市ストラスブールは古来交通の要衝として栄え、貴重なスパイスも運び込まれ、ヴォージュ山脈に広がるヴォージュの森で得られる甘露蜜『もみの木の蜂蜜 miel de sapin』はアルザスのパンデピスに独特の風味とコクをもたらしてきました。
木型から抜き型へ
中世の間は、特産の梨の木の板にモチーフを彫り込んで木型を作り、そこに麦粉と蜂蜜とスパイスを捏ねた生地を押し入れて、凹凸のレリーフが浮き出た生地を焼いていましたが、18世紀には生地を薄くのばして、抜き型でカットされて焼かれるものも作られるようになります。
そして現在はドイツの『ペファークーヘン』や『レープクーヘン』の流れをくむビスケットタイプと、ランスやディジョンでもみられるパヴェやパウンドタイプの2タイプが共存しているのが特徴です。
二種類のパン・デピス
個性的なパンデエピスが楽しめるのはアルザスならでは。大きく分類すれば、生地を薄めに延ばして型抜きして焼くクッキータイプと、パヴェやパウンドタイプ アルザスでは2つのタイプが共存しています。
ビスケットタイプ
ニュルンベルクのレープクーヘンなどドイツから伝わった伝統のスタイルにアルザスらしさが加わったもので、ねちっとした食感で、噛むたびにスパイスと蜂蜜の味が広がります。生地を平らにのばしたら、型で抜いて焼かれます。主にサンニコラの日やクリスマスの時期に食べられ、アルザスの冬にクリスマス到来の高揚感を運んでくれる存在
11月下旬になるとたくさん出回り、12日6日の『サン・ニコラの日』や『クリスマス』のプレゼントに好んで使われ、ツリーに飾られます。ナッツやドライフルーツを飾って焼き上げたり、焼いてからアイシングでカラフルにデコレートしたり。中でも白いアイシングで表面を覆い、サン・ニコラなどクリスマスにちなんだ絵柄の紙「クロモス」をおいてラッピングされたものは、クラシックな伝統感が漂って、このお菓子がたどってきた長い歴史を感じさせます。
ショウウィンドウに並べられたパンデピスたち。サン・ニコラを描いたクロモスで飾られ、ラッピングされたものがたくさん並びます。
ショウウィンドウに並べられたパンデピスたち。細長い楕円形のものは舌:「舌 langue」『ラング・ド・パン・デピス』と呼ばれ、サン・ニコラを描いたクロモスで飾られ、ラッピングされたものがたくさん並びます。
ペイブ、パウンドタイプ
ストラスブールやコルマールの町のパティスリーでは年間を通してパウンドタイプのパンデピスが焼かれていますが、11月も半ばともなれば、各パティスリーがいく種類も焼いて、オリジナルレシピを競い合います。
伝統のパンデピスの材料は 麦粉と蜂蜜、スパイスのみ。そこに19世紀末 重曹やベーキングパウダーが開発されて加えられるようになり、ふんわり感が実現しました。
さらに現代は伝統の生地に、オレンジのコンフィチュールやオレンジやレモンのピールを混ぜたり、フルーツのコンフィチュールやオレンジマーマレードを生地の間にサンドしたり、胡桃などのナッツ類を加えたり、チョコレートでコーティングしたり… 従来の材料に相性の良い材料が加えられた進化系パンデピスが生まれています。
ノネット Nonette
パンデピスの生地を小さな円筒形に型抜きし、中にコンフィチュール(ジャム)などを詰めたもの。特産のブルーベリーやフランボワーズ(木いちご/ラズベリー)のコンフィチュールが使われ、年間を通してお茶のお供に愛され続ける存在です。
州都ストラスブールは「道の町」を意味するラテン語「ストラデブルグム」に由来する名をもつ古来交通の要衝として栄えた町 貴重なスパイスも運び込まれ、パン・デピス作りに好都合でした。さらに蜂蜜にも恵まれました。
もみの木の蜂蜜
ライン川に並行してなだらかに連なるヴォージュ山脈に広がるヴォージュの森は、主にヨーロッパモミの木で構成されています。春 モミの木が出す樹液を目当てにアブラムシが付着し、この寄生したアブラムシが分泌する甘露蜜を求めて蜂たちが集まり、独特の甘露蜜:『もみの木の蜂蜜 miel de sapin』を作り出します。このモミの木の蜂蜜がアルザスのパン・デピスに独特の風味とコクをもたらしてきたのです。
アルザスのクリスマスとパン・デピス
アルザス地方で600年の歴史をもつパン・デピス
現在では1年中パティスリーの店頭で見ることができますが、貴重なスパイスや蜂蜜をたっぷり使うお菓子ですから、中世の頃はサン・ニコラの日やクリスマスの時期にのみ食べられる特別感溢れるお菓子でした。その伝統は今に続き、パンデピスはアルザスの冬にスパイスの香りとクリスマス到来の高揚感を運んでくれるお菓子です。
ストラスブールのクリスマス市:マルシェ・ド・ノエルは、1570年に始まったフランス最古のマルシェ そこに並ぶワゴンには伝統のクリスマス菓子がいっぱい!パン・デピス、男の子の姿をしたブリオッシュ「マナラ」、小さなビスケット「フレデル」がたくさん並んで、覗き込む人、買い求める人 それぞれ楽しそう…